欧州でのコンピューターソフトウェアとビジネスモデルの特許認可

欧州では、規定上、特許対象から除外される項目が幾つかあります。例えば、コンピュータープログラム上の発明「それ自体」やビジネスモデル「それ自体」は特許対象から除外されます。

これは何を意味し、また、実際どの様にしてこれら特許除外の判断が下されるのか以下に説明します。理論的に、規定上の「それ自体」という表現は除外の範囲を示しますが、欧州特許条約の起草過程で、その意味は意図的に曖昧な形で残されることとなりました。 その解釈をめぐる判例法はこれまでに随分変化を遂げましたが、現在の特許除外の対象は、比較的一定した予測し易いものとなっています。しかし、特に新しい技術分野では判例法の更なる発展の余地があり、現在、特許除外となっている項目が将来特許対象となるかもしれません。

以下に述べるのは、欧州特許庁(EPO)のコンピューターソフトウェア及びビジネスモデルに関する発明の現在の取扱いです。ここに述べるのはあくまでも「現在」の情報であり、将来変更になる可能性があることに留意して下さい。EIPは、このコーナーで常に最新の情報をお伝えしていきます。

また、特許除外の対象が、欧州特許庁と締約国各国の特許庁で異なることにも留意して下さい。特に、英国知的財産庁(UK IPO)は、近年、ソフトウェアの特許に関して、欧州特許庁より著しく厳しい姿勢をとっていますが、最近の判例を見ると、英国知的財産庁のソフトウェアに関する態度は和らいできたようです。この分野での海外からの発明出願の大多数は、各国特許庁ではなく欧州特許庁を通じて行われるので、ここでは欧州特許庁における特許審査に焦点を絞って説明します。ヨーロッパ各国の特許庁に関する情報が必要な方は、EIPにご照会下さい。

(コンピューター ソフトウェア)

欧州特許庁でのコンピュータープログラム関連の発明の審査は、先ず出願された発明の特徴が技術的なものかどうかを見極めることから始まります。コンピュータープログラム上の技術過程を発明として出願した場合、その発明は固有の技術的特徴を持つものと見なされ、コンピュータープログラムそれ自体とは区別されます。よって、コンピュータープログラム関連の発明は、たとえ下記のブレーキ装置のような外部効果がなくても、特許除外の対象と見なされることは稀です。

次に、欧州特許庁は出願された発明の新しい特徴若しくはその貢献を特定します。出願された発明の新しい特徴若しくは貢献が、精神的行為、ビジネスモデル、数学的モデル等の特許対象外の領域のものである等の理由で、技術的効果がないと見なされる場合、その発明は進歩性を欠くものとして、先行技術と比較した審査の結果ではなく、定義上の理由で拒絶されます。例えば、ごく普通のコンピューター上でごく普通のコンピュータープログラムを使って行う、今までにない革新的なオプション取引方法等の発明は、その新規性やコンピューター上で扱われるという事実にも関わらず、技術的効果をもたらさないビジネスモデルであるため、特許性を有すると判断される可能性は低いでしょう。一方で、下記に詳しく説明するように、経済的若しくは商業的改善ではなく、技術的改善によってより効率的なオプション取引を可能にするコンピュータープログラムには、特許性があると見なされる可能性があります。

上記の例とは対照的に、自動車のブレーキ装置のような機械や機器の新しい制御方法を可能にするコンピュータープログラム等は技術的発明と見なされ、既知の類似した制御法と比較で、確実に、発明の進歩性の審査が行われます。

更に、欧州特許庁は、長年、コンピュータープログラムその他の発明で、実測データ等の有形データに関わるものには特許性があるとしてきました。例えば、出願する発明が、コンピューター上で新しいアルゴリズムを実測データに適用して、有形の数値を生み出すものである場合、その発明がコンピュータープログラム「それ自体」であるとして特許性から排除される可能性は低いと思われます。画像処理、暗号法、データ・マイニング等のコンピューターソフトウェアについては、たとえ発明の焦点が新しいソフトウェアであっも、その適用には全て特許性があると見みなされ、特許除外の対象にはなりません。

(ビジネスモデル)

先に述べたように、「それ自体」という規定は特許除外の範囲を示します。この規定は、商取引、商品や人材の管理、そして商品やサービスの流通等の分野のみに関する発明を、特許権保護から除外することにあります。これらの発明は、技術的特徴に欠けるため特許性がないと見なされます。

英国知的財産庁及び欧州特許庁は、これらの発明の審査には比較的厳しい姿勢を取ります。オプションや株取引の新しい方法は、抽象的な概念に関するデータを扱うもので技術的特徴に欠けるため、特許性から除外される可能性が高いです。同様に、商品発送や人材の組織化は技術的要素に欠けるとみなされ、特許性から除外されます。

しかし、その様な発明も、特許明細書の作成や特許出願手続きの方法によって、特許権を取得できる可能性が出てきます。例えば、出願書上、特にクレームの記載において、出願する発明の技術的特徴や効果をできるだけ前面に出し、商業的なものではなく実装技術であることを強調するのは一つの方法です。その際、発明のもたらす商業的メリットや、人材管理の改善等の商業上の利点には触れないのが重要です。この分野に関するアドバイスをご希望の方は、EIPまでご連絡下さい。

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